アーカイヴは、ダンスの生産と消費のサイクルに風穴を開ける・・・かも?

2016年02月5日


 ダンス・アーカイヴのクリエーションへの利用というと、川口隆夫さんによる大野一雄作品のリクリエーションや、セゾン文化財団のアーカイヴ・ボックスなどでここ数年にわかに注目を集めています。が、ドイツでは2011年から連邦文化財団が舞踊基金Tanzfonds* Erbeを設け、つまり国の文化政策レベルで舞踊遺産の創造的な利用を促してきました。その成果は、オスカー・シュレンマーの『トリアディック・バレエ』(のゲアハルト・ボーナー版)やマリー・ヴィグマンの『春の祭典』といった歴史的前衛作品のリコンストラクションにとどまらず、レクチャー・パフォーマンスなど、リサーチから作品形式まで多様なアプローチを生み出してきました。

 *Tanzfonds.deは、ドイツ連邦文化財団Kulturstiftung des Bundesが2006年〜2011年のTanzplan Deutschlandの終了後に始めたダンス基金。「遺産Erbe」と「パートナーPartner」部門があり、2014年に満期となったが「遺産」は2018年まで延長。

 Tanzfonds Erbeで注目されるのは、単にクリエーションのための助成枠が増えたというだけでなく、延長されたことが示すように、新たに焦点となる作品群を生み出し、ダンス・シーンの活性化に貢献している点です。その要因の一つとして、傍目にも顕著なアーカイヴへのアプローチにおけるベクトルの転換があります。一言でいえば、忠実な再現から自由な解釈へ。いや、解釈がまだ原典をオリジナルとする行為であるとしたら、オリジナル/コピーの序列を転倒した、思い切った利活用と言ってもいいかと思います。日本でも紹介された、マルティン・ナッハバーのUrheben Aufhebenなどは、ジャーマン・モダン・ダンスのカリスマ、マリー・ウィグマンの弟子筋へのアプローチをレクチャー・パフォーマンスに仕立てたもの。映像が全部vimeoにあがってるのもすごいですが、これを見ると、カット&ペーストの素材レベル。

 こうした、いぜんなら“冒涜?”と躊躇されるような自由なアプローチが出てくる背景には何があるのでしょうか。興味の尽きないところですが、シーンの活性化という点に絞って注目されるのは、振付方法とともに鑑賞の構え、方向づけが変わる可能性です。それはたぶん、鑑賞のコンテクストが多重化する・・・・つまり、アーティストがテクストxに取り組んでテクストyを生み出すとき、観客はyを、現代のダンス市場でふだんどおりの構えで目にしても、その背後にxとそれを生み出した別の文脈も賺して見ようとするからではないでしょうか。このときやり方によっては、アーティストは文化遺産への痕跡をたどるプロセスを、観客に同じ出発点から共有させることができる。そうしたデモクラティックと言っても良いリサーチの共有手法は、ジェローム・ベルやドキュメンタリー演劇以降、洗練の一途をたどっています。
 
 翻って、日本のコンテンポラリー・ダンスの鑑賞は、ブーム時に「優劣のジャッジ」から「新しいもの探し」「押しダンサー探し」といった消費行為と親しくなった後失速し、私見では目下「遊び」の導入によって、遊び仲間を耕しつつあるところ。「アーカイヴ」がこの真剣な遊びに複雑で豊かな材料を提供し得るか、あるいは逆に、知識を有する人物が幅をきかす専門家の慰みとなるか。それは自律的な運動の終点となる「権威」を無化し、実践過程の手法や葛藤や議論を公に開いてゆく批判性と創造性、そしてもちろん遊び心にかかっていると考えます。ドイツのダンス・アーカイヴは、そのための転換をめぐる議論と、興味深い実践例を提供してくれることと思います。
 
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大阪大学文学研究科主催「声なき声 いたるところにかかわりの声、そしてわたしの声」芸術祭III
事業⑧「ドキュメンテーション/アーカイヴ vol.2」勉強会
 
講演:舞踊における時限的な場所としてのアーカイヴ 
”The Archive as Temporal Situation in Dance”
 
日時:2月20日(土)13:30-15:00
会場:大阪大学中之島センター 講義室702
料金:無料   
言語:英語(逐次通訳つき)
 
※お申し込みは特に不要ですが、準備の都合上、お名前と人数だけ、メールで簡単にお知らせいただけますと助かります。
お申し込み・お問い合わせ先:koefespublic@gmail.com[担当:古後]
Foellmer cube

 

講師:スザンヌ・フェルマー Susanne Foellmer  ベルリン自由大学(演劇学、舞踊学)准教授。
 
主な研究領域は、コンテンポラリーダンスとワイマール期のダンスの美学と身体論、ダンスと映像やビデオといったメディアの関係、コンテンポラリーダンスとパフォーマンスにおけるジェンダー論的視点、時間性やパフォーマンスの歴史性に関する概念。 2004年春よりドイツ研究振興協会(DFG)の研究プロジェクト “ÜberReste. Strategien des Bleibens in den Darstellenden Künsten” (On Remnants and Vestiges. Strategies of Remaining in the Performing Arts)を進めている。
ダンスカンパニーRubato、ジェレミー・ウェイド、イザベル・シャッドらのドラマトゥルクを務めた経験もある。2008-2011年にかけてベルリン州文化庁・ダンス演劇部門審査委員会委員、 2009年博士論文でベルリン大学賞・ティブルティス賞受賞、ベルリン自由大学エルンスト・ロイター賞最終ノミネート。TPAM2016「ダンスのアーカイブと老いを巡るシンポジウム」パネル参加。
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